インタビュー

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【ハートコア社】プロセスマイニングツールApromoreの特徴と日本企業の現状

〈導入〉

この度、オープンソースのプロセスマイニングツール“Apromore”の日本版リリースに際しまして、ハートコア株式会社の代表取締役社長・神野純孝様に取材をさせていただき、Apromoreを中心に、日本におけるプロセスマイニングの現状などをお話しいただきました。

 

―まず初めに今回発売されるApromoreの特徴について教えてください。

まず、最大の特徴は「オープンソース」であることです。そもそも「無料で使える」というのは、「オープンソース」と「商用版の無料ライセンス」の2種類があります。

この「商用版の無料ライセンス」というのは、もちろん無料で使うことはできるのですが、色々な制約が付きます。例えば、自分たちで自由に何かを付加してはいけないとか、勝手に機能を開発してはいけないといった制約です。しかもソースコードは非開示です。さらに、いつ使えなくなるかもわからないというリスクも存在します。供給会社の考えによってコロコロ変わってしまうというのが無料で利用できるライセンスです。

一方で、オープンソースは、完全に自由に使えて、自由に改造ができます。ソースコードが開示されているので改良が自由です。何をしてもOKで、自分たちでガンガン使ってくださいっていう方針です。世界ではオープンソース戦略がすごくたくさん取り入れられいて、さまざまなアプリケーションにおいて、相当数の割合でオープンソースが占めているっていうのが現状です。

実は、プロセスマイニングの中でもApromoreは非常に珍しいオープンソースになっています。完全なオープンソースのプロセスマイニングツールはいくつかあるのですが、これは一般の「商用ライセンス」をオープンソースにしているところが一番の違いであり、非常に大きなポイントです。

 

―オープンソースの魅力について詳しく教えてください。

日本で大きくプロセスマイニングを広げていくためには、「無料で自由に使える」ということが重要だと思っています。そのため、企業様には無料で気兼ねなく、何の制約もなくお使いいただけるようにしました。

必要があれば、機能が豊富で、コンサルがついたり、サポートがある「エンタープライズエディション」もありますので、サポート等が必要な企業ユーザー様なら、これをお使いいただく事で安心感を得ていただけます。

さらに、自由に使えるということで、オープンソースは研究者、エンジニアが非常に活発に使ってくれるので、コミュニティに支えられ、最先端の機能がかなり入ってくることも特徴です。

他の商用版のアプリケーションは、ベンダーが色々な機能を追加する必要がありますが、、オープンソースはコミュニティにエンジニア達が色々な機能をどんどん追加していくので、常に最先端の機能が使えます。この点が、オープンソースの特色で他社の製品とは展開が違います。

基本的な機能は他社と比較しても遜色ないレベルで充実しています。更にこのオープンソース・コミュニティの様々なアドオン機能を付け加えることによって、何でもできてしまうようなプロセスマイニングになります。これは面白いと考えています。

ただし、日本では当然、オープンソースのコミュニティの熟成がまだまだ、というより活発化していないので、活発に使っていただけるように、我々の方で様々な取り組みをしているのが今の状況です。

 

―依然として日本では海外に比べてプロセスマイニングに関するエンジニアや研究者が少ない状態が続いておりますが、今後活発なコミュニティを形成していくために必要だと考えられていることは何でしょうか?

圧倒的に、日本はプロセスマイニングを学問として捉えられていないです。プロセスマイニングだけではなく、データサイエンスという学問自体が日本ではまだまだ認められていないっていうのが現状で、ここが大きな問題であると思っています。なので、まずは色々な文献や教材を整えていかないと、プロセスマイニングが日本で浸透していくのは難しいと思っています。

Apromoreはメルボルン大学から始まっています。このメルボルン大学の講義を基本にして、それを日本の学生や研究者の方に合うように変更をし、現在は私が大学での講義に使っています。そういったものを全部公開していくことで、少しでも日本の大学でプロセスマイニングが根付くようなお手伝いをさせ頂こうと思っています。

 

―このApromoreの販売によって、今後の日本企業のビジネスにもたらすと期待されるメリットは何でしょうか?

今までプロセスマイニングは、ある程度の企業規模がないと導入できませんでした。例えば、我々の別のプロセスマイニングのmyInvenioは、売上500億円以上の企業にターゲットを絞っていました。実際に導入される企業は、売上高が数兆円の企業が多いです。どうしてもプロセスマイニングを導入するには、コストメリットを考えると、ある程度の予算と組織がないと、なかなか始められなのが大きなデメリットでした。

しかし、Apromoreによって、一気にプロセスマイニングの間口を広げることができると考えています。コストは一切かけないでプロセスマイニングを導入していただくことができます。さらに、ApromoreにはETL(様々な基幹系システムのデータを入れるときに行うクレンジング作業に必要なツール)がついています。データをプロセスマイニングに投入する際に、不要なデーターを削除し、活用が出来るデータにそろえる行為、つまりクレンジングが非常に重要で、これがプロセスマイニングを活用するための肝になりますが、今まではコンサルの担当者が手動でクレンジングを頑張るしか方法がありませんでした。正直なところ、この作業が必要になる為、プロセスマイニングが日本で普及しない一つの原因になっていました。

ApromoreにはETLが標準でついています。ある程度のテンプレートは作る必要がありますが、クレンジングを自動で行えます。通常ETLツールは購入すると数百万円します。ETLツールを購入し、プロセスマイニングを購入し、クレンジングしてデータを投入すると、少なくとも最低2000万は必要です。さらに、コンサルを入れると3000万程度はプロセスマイニングを利用するために必要になります。

今までは、3000万出せない為に導入を躊躇していた企業ユーザーや、無料なら自分たちでやってみよう、という企業様にもお使い頂く事が出来るのでと、一気にプロセスマイニングの間口を広げ、普及させる起爆剤になると私は期待しています。

 

―プロセスマイニング自体は、お客様の方で結構認知されていらっしゃるのでしょうか?それとも会社様からご紹介する形で知っていただくのでしょうか?

肌感として、認知度はまだまだ低いと思っています。なかなかプロセスマイニング自体を知らない方も多いですし、何ができるのかをわかっていない方も多いです。

知っているという方でも、「万能ツール」みたいに、「ログを投入したら、プロセス可視化できる」と思っている方が多いので、そのギャップを埋めていくのは大変です。我々も啓蒙活動をもっとやっていく必要がありますが、そこがまだできていないのかなと感じています。

 

「プロセスマイニングってなんとなく難しそう」というイメージを持つ方はやっぱり多いと思いますが、実際に扱える方はやはり高度なエンジニアの方ということになってしまいますか?

残念ながら現時点ではそうです。先ほどお話ししたクレンジングに関しては、データの前処理を行うにはデータベースのSQL構文が分かるエンジニアじゃないと使えないです。しかも、業務知識も必要なので、業務知識があり、SQLが使えるエンジニアが必要なので、導入ハードルは高いです。

今までのプロセスマイニングの導入に対するハードルが非常に高いので、私がApromoreでETL機能の追加にこだわったのは、このハードルを少しでも下げたからです。誰でも使えるツールじゃないと普及しません。

欧州では多くの企業にERPとしてSAPが導入されています。これらの企業はSAPだけで業務を行っているので、SAPと連携すればそのままプロセスが可視化できてしまいます。特にクレンジングの必要性がないので、プロセスマイニングが一気に広まりました。しかし、日本はSAPだけで業務を行なっているケースが少ないです。他のツールも併用しているため、データクレンジングや名寄せが必須になっています。これがプロセスマイニングの導入が遅くなっている原因になっているのかなと思います。

 

―御社では、プロセスマイニングの他にもCMSだったり、RPAだったり、タスクマイニングっていうのがあると思うんですけれども、これらの利用場面やシナジー効果についてはどのようにお考えでしょうか?

まず、CMS、コンテント・マネージメント・システムですが、これはWebサイトの管理ツールです。この分析を今プロセスマイニングでやっています。例えば、あるお客さんがどういう画面遷移をしたかを元にコンバージョンというものを採ります。

売り上げを短期間で倍にするのは、実店舗だと不可能に近いですが、Webではコンバージョンを上げるだけで、一気に倍ぐらいの売り上げを作れます。だから、ページ遷移の際の離脱を防いで、コンバージョンを上げることが重要です。

そのために、「なぜこの人はこのページから離脱したのか」というのが特定できると凄く有効です。我々はこの分析にプロセスマイニングを使っています。こういった点に親和性がありますね。

 

―プロセスマイニングの間口が広がる起爆剤になるということでしたが、神野社長自身は、今後の日本において、このApromoreは特にどのような業種のビジネスプロセスに必要とされると考えておられますか?

まず、日本の製造業の生産性は、海外に比べてまだいい方で、唯一勝てているかなという分野なので、まずは製造業のプロセスをもう少し効率化をしていくというのが一つ。

そして、残念ながら、他業種は非常に生産性効率が悪いのです。例えば金融は、欧米に比べて生産系は最悪です。海外とビジネスをせざるを得ない分野で、生産性が悪い分野を狙っていきます。まず、最初は製造と金融にちょっと重きを置いてやっていこうと考えています。

当然、それに特化するわけではなく、流通など、幅広い分野で取り入れていただきたいと思います。

 

―今後、日本仕様版を公開するということですが、具体的にどのような日本の特徴を反映して制作されたのでしょうか?

一番重要なポイントは、先程もお話ししたように、海外、特に欧州ではSAPなどのERPで業務が完結しています。欧州の企業は、例えば人事も製造も、売り上げ管理も会計も、全ての業務をERPで回しているので、ERPとさえ接続できれば、それで事足りるという世界です。

しかし残念ながら日本はそうではありません。例えば、製造の部分はERPを使っているが、人事や給与計算とかは別のシステムを使っていたり、基幹系のシステムは、独自にS Iベンダーさんに作ってもらい、運用されていたり、基幹系のシステムが数個から多いところでは数十個もバラバラに動いているような状況です。

そのため、複数のシステムを全て横断して可視化する必要があるのに、それができないということが一番大きな問題です。例えば、100個のパーツからできている製品は、100個のパーツを全てトラッキングしないと、悪いところやクリティカルポイントは見つからりません。

なので、我々は横断して可視化できるように工夫をしています。最終的には10個でも20個でもプロセスを入れて、一つの製品をトラッキングができるようにします。実は、標準のApromoreにはなかった機能ですが、このような機能を追加しているのが日本仕様版の特徴です。

 

―今後、Apromoreに関する書籍を発行されるそうですが、この本のターゲット層はどのような人たちでしょうか?

一般書物と違って、読者は企業の人事担当者や、製造部門担当者と、特定した方が対象です。ですので、簡単なプロセスマイニングのことを書いても全然意味がないと思ってます。プロセスマイニングに関しては、既にいくつか雑誌が出ています。例えば、百瀬公朗さんが書かれた「プロセスマイニングの衝撃」や松尾順さんが書かれた「プロセスマイニングの教科書」というような初心者向けの本も既に出版されています。

実際に企業ユーザーが「プロセスマイニングを使うと何ができて、どうやったらプロセスが可視化できるのか」っていう本は現時点では存在していません。

例えば、企業がお試し版のプロセスマイニングにログを入れて可視化しようとしても、ぐちゃぐちゃになってしまい、「訳がわからないのでやめた」となっています。それはすごく勿体ない。「ログはどうやって取るのか」、「ログは取った状態で入れてもゴミがいっぱいあるから、クレンジングをしましょう」、「プロセス可視化した後、どうやって問題点を見つけていくのか」といった、プロセスマイニングの1から10までの使い方を説明する本を出版します。やっぱり、実際のツールを事細かに説明しているようなものがないと、なかなか使えないです。

このような内容なので、本当にApromoreを利用してプロセスマイニングを実際に使ってみたい、会社の業務を可視化していきたいっという想いのある人のための本だとお考えいただければと思います。

 

―貴重なお話をありがとうございました。