インタビュー

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【Software AG】 小原氏に聞く、日本のプロセスマイニングの現状と活用戦略

今回は、Software AGの小原洋氏に、同社と日本のビジネスの現状、プロセスマイニングの展望、社長の経歴や想いについて、お話伺いました。

 

―御社が取り組まれていることについて教えてください。

スローガンである「真に繋がるエンタープライズ」を目指しています。その「繋がる」を実現させるために様々なことをやっており、具体的な事業は大きく3つに分かれます。1つは、プロセスマイニングやBPMに関連する「ビジネストランスフォーメーション」です。これは人と人の繋がりや、人と業務の繋がりをはっきりさせるための事業です。2番目の柱は、「IoT」で、「ものとシステムを繋げる」ための技術です。最後は、「APIインテグレーション」という「システムとシステムを繋ぐ連携」の領域です。これら3つは、いずれも「繋がり」に関連するものとなっています。

歴史の話をしますと、今から50年程前のPCもない頃に、メインフレームシステムにおけるDBデファクトの“ADABAS”を開発しました。それが、現在に脈々と繋がるSoftware AGのビジネス基盤の誕生です。そこから自社で技術を開発しながら、様々な会社を吸収・統合・買収してきました。このように、1社で事業を行うだけでなく、色々な企業と提携していく中で、データベースから先述の3つの領域に広めていきました。

 

―日本のDXの現状については、どのようにお考えでしょうか?

もちろん、DXに関する取り組みは増えていると思います。しかし、グローバル企業として、意思決定やスピード感の観点から見ると、日本はまだまだだと思います。欧米と比べて、「トランスフォーメンション」という文字通りに、ビジネスモデルを抜本的に変える取り組みをしているところは少ないと考えています。

経営層の意識やその旗振りでも、日本は足踏みしている印象があります。プロセスマイニングの普及に関しても、もう少し時間かかりそうに思えます。その中で、プロセスマイニングの普及はDXにおいても肝要になってくると思うので、我々もプロセスマイニング協会の皆さんと一緒に貢献していきたいと思います。

 

―スピード感や経営層の意識に加えて、日本で変革を行う上での課題は何でしょうか?
「人」ですね。DX人材を育てていこうという国を上げての取り組みはありますが、現状DX人材の不足に悩んでいる企業は多いです。社内にDX人材がいないと、どうしてもベンダーに依存してしまい、ITの開発や投資は他社に丸投げにしているのが現状から脱却できないと思います。そのため、企業内などにDX人材を増やすことが必要になると考えます。

 

―そういった日本におけるDXの現状を踏まえて、御社が注力していきたい事業領域を教えてください。
ビジネスプロセスに関しては、マイニングのみならずモデリングも含めて、データとプロセスに基づいて変えていくサービスをどんどん使っていただきたいと思っています。

また、業務の効率化や新しいビジネスを始めるとしても、データやプロセスが分断されていれば、上手く実行できないケースもあります。そのため、様々なシステムやデータを「繋ぐ」ため、企業全体のDXを色々なところで支援して行きたいと考えています。

 

―ここからはプロセスマイニングについて伺います。御社がプロセスマイニングに取り組まれたきっかけを教えてください 。

2010年代に“ARIS(Architecture of Integrated Information Systems)”というプロセスマイニングを行えるソフトウェアを買収したのがはじまりです。当時は、BPRも日本や世界中でブームになっておりました。その流れでARISを他の自社製品とも連携し発展させていこうと努めて成功しているのが現状です。

 

―ARISについて詳しく教えてください。

ARISは、プロセスマイニングだけでなく、多様な機能が備わるソフトウェアで、ビジネスプロセスを全体的に設計・管理することができます。例えば、営業や購買をなど現場で使用する方たちに理解してもらうためのダッシュボードをつくったり、フローチャートをPDFやExcel等で出力したりできます。As-Is分析とTo-Be定義の双方ができるため、プロセスマイニングだけでなくプロセス管理までできることが大きな特徴です。

 

 

―ARISはどれくらいの人々に使われているのですか?

現在は1万社以上の会社、1千万人以上に使われています。FORBES100と言われる世界的著名企業の3割以上もARISを活用しています。ARIS利用者によるコミュニティも発展しており、ナレッジの共有や質問など、ユーザー間の世界も出来上がっています。

また、日本でも、商社や銀行、自動車メーカーなど大手企業を中心に100社以上に使用されています。

 

―プロセスマイニングの機能では、データの取り方が重要だと思います。その点に関して、ARISの特徴を教えてください。

SAP をはじめ様々なコネクターを用意しており、あらゆる企業のシステムのデータを簡単にとれることが特徴です。さらにAPIやインテグレーションの製品を活用することにより、ログデータの収集のみならず、データクレンジングも簡単に行えます。また、プロセスのあるべき姿の設計からスタートできるので、システムログありきのプロセスではなく、フルサイクルでプロセスを包括的に管理できます。

 

―日本におけるプロセスマイニングの現状についてどのようにお考えでしょうか。

プロセスマイニングに対する認知は拡大してきましたが、具体的な役割や使用するメリットを知っている人が少ない印象を抱いています。認知を広げるためにAs-Isの業務をビジュアライズするだけでは不十分で、お客さまにとってのDXにおける目標が何か、そして、プロセスマイニングのゴールを定義することが重要だと考えます。例えば、業務の流れを全て変え、新しいビジネスモデルを投入することにも使えますし、利益向上や顧客体験の大幅な改善に基づいた経営目標の下でのプロセスマイニングの活用も有効的です。アウトプットを出すためには、経営目標と実際にすべきことを一体化した上での取り組みが必要になってくると思います。

 

―プロセスマイニングによる変革をより良くするために必要なことやできることについて、何かご意見ございますでしょうか。
ヨーロッパに目を向けた際に、限定的な目的や使い方ではなく、受発注を含めた様々なユースケースがあります。実際に、欧米の金融機関は、国による規制も多いなか、審査業務や提出業務のリスク管理・コンプライアンスチェックなどでプロセスマイニングを活用しています。

その点、当社はIoTもしており、製造現場で何がおきているかのデータをプロセスマイニングにかけて、製造プロセスそのものに適用しています。日本はメーカーが多いため、製造プロセスへもデータさえあれば適用できるので、積極的に取り組めば興味深い結果が出るかと思います。そのため、まずはこのような事例を啓蒙していくことが重要になってくると考えます。

 

―プロセスマイニングを普及していく上での戦略があれば教えてください。
大前提として、1社だけでできることではないので全体の底上げが必要だと思います。その上で、当社はプロセスマイニングだけでなく、プロセス設計・プロセス管理という大きな枠組みで使うというアプローチを取るなどして、戦略を練っています。

 

―当協会はプロセスマイニングを中小企業にも広めていきたいと考えております。その点についてどのようにお考えでしょうか?

コストやリソースの問題で活用されていないのが現状ですが、「中小企業でもどんどん普及させたい」という思いには強く共感しています。そのためには、「みんプロ」をはじめ、プロセスマイニング協会の皆さんの活動が重要だと思います。

Software AGとしてできることがあるとすれば、プロセスマイニングに関するコミュニティの活性化だと思います。プロセスマイニングに関する製品は無償のものを含めて様々あり、欧州では半分アカデミックで半分企業現場みたいなコミュニティで情報交換を行っています。このようなコミュニティが発展すれば、日本の中小企業の普及にも寄与すると考えます。

 

―プロセスマイニングを導入するにあたり、データ分析・活用ができる人材が必要となってくると思われます。しかし、日本には、データサイエンスに関わる人材が不足しているとの声もあります。この点についてどのようにお考えでしょうか?
個人的には、全体の裾野を広げるという意味で、アカデミックな学びが入り口になると思います。そして、そのうえでデータサイエンスを学ぶ人材が増えることが基本になると考えます。実際に、色々な企業がデータに強い人材の雇用を進めようとしていますが、企業に入ってから学ぶ環境を作ることも同時に必要になるかと思います。

 

―今年社長に就任され、強力な営業チーム育成してリードしていくと伺いましたが、第一に取り組みたいことは何でしょうか?
日本企業への認知を拡大したいです。Software AGは、ドイツあるいは世界では超有名ですが、日本での知名度は低いです。製品の評価は高いため、知名度が上がれば、自ずと使っていただくお客様が増えると考えています。
外資系企業にとって、日本の特殊なビジネスの環境の難しさはありますが、そこをなんとか克服して、 多くのお客様に使って頂けるよう、営業チームをどんどん強化していきたいと思います。

 

―営業チームの強化という意味では、ツールの知識も必要になるかと思いますが、教育体制はどのように整備されていますか?
Software AGは、教育コンテンツが豊富です。例えば、プロセスマイニングに関しては、製造や金融、物流をはじめ、業種によって製品の使われ方も異なるため、業種やお客様に合わせたデモシナリオがあります。ユースケースや、製品ごと、業種ごとの教育コンテンツを掛け算すると、何百何千もの研修があります。それらを用いて各自がラーニングして、スキルアップしていく環境があるため、その活用を進めたいと考えております。

 

―今度は、社長の経歴についてお伺いします。エンジニアからスタートされて、様々な企業でマネジメントをされることになった経緯を教えてください。
学生時代は、プログラミングや通信工学を勉強しておりました。ものづくりをしたいと考え、メーカーでエンジニアを5年ほど経験しました。しかし、お客様やユーザー様が見えない現場で、「ものを売るところに近い仕事の方が面白そうである」と考え、商社に行きました。営業経験はなかったので、まずは、セールスエンジニアやプリセールスとして、製品説明を行いました。その後、より「お客様に近い」営業に変わりました。エンジニアをしていたことから、「技術的な素養を生かした営業」という自分なりの差別化がありました。

また、商社で海外製品を輸入していたところから、「新しい海外製品を発掘して、日本で展開していく」ことに関心を持ちました。そこで、日本のビジネスを作っていく外資系企業に転職していき、現在の立場になりました。

 

―最後に、将来のプロセスマイニングを担っていく若手世代に、メッセージをお願いします。
プロセスマイニングは、元々アカデミックから生まれてきた技術です。まずはビジネスを考えずに、インテリジェントな新しいテクノロジーとして、プロセスマイニングを認知してもらいたいです。学生や研究者、エンジニアの間で広まり、研究が進むことで、ビジネスの世界で使われ、企業価値や利益、新しいビジネスが生まれることにも繋がります。プロセスマイニングが最初のボトムの部分で広がり、基盤として大きくなることを期待しています。

 

―貴重なお話ありがとうございました。

今回インタビューさせていただいたSoftware AGのホームページはこちらからご覧いただけます。