【Business Cube & Partners】ハイテク製品開発現場におけるプロセスマイニングの活用と今後の展望
今回は、ハイテク製品の開発を支援するコンサルティングファーム・ビジネスキューブ・アンド・パートナーズ株式会社の西門氏と小西氏に、開発現場におけるプロセスマイニングの導入に関する課題や現況、今後の展望などについてお話しいただきました。
-この度は貴重なお時間を頂戴しまして、誠にありがとうございます。まずは、御社がどのような事業をされているのか、簡単にお教えいただけますか?
当社は自動車や航空機など人の命に関わるハイテク製品の開発をご支援するコンサルティングファームです。
近年、自動車に安全機能が多数備わり、航空機も電子化が進み便利になった一方で安全性が強く求められる時代になってきました。そのため、企業は「命に関わる製品をいかに安全に届けるか」を重視しなければなりません。
このように世の中で求められる「安全の水準」が日に日に高まる中、世の中をより安全・安心にするため、自動車業界や航空業界などの開発現場をプロセスの側面からご支援しています。弊社の顧客はもともと自動車業界の方が8割から9割でした。現在はそのノウハウを鉄道業界や航空業界に展開して事業領域を拡大しています。
-具体的に開発現場のどの段階でのコンサルティングをおこなっているのですか?
クルマ作りの大きな流れは、企画フェーズ→開発フェーズ→生産準備フェーズ→生産フェーズの段階に分けられます。工場で生産を開始する前の開発フェーズにおいて「どのように製品を設計するのか、どのような機能を搭載するのか」という検討や設計、試作品を用いてテストを実施するフェーズを弊社はご支援しています。具体的には「どのように市場のニーズを満たした製品を作れば良いのか、どのように設計すれば良いのか」をお客様と膝と膝を突き合わせて開発現場の課題に取り組んでいます。
-技術的なレベルが上がることで、開発現場において技術者が考えなければいけない範囲も広がり、求められる技術はますます高度化されているのですね。このようにタスクが複雑化している中で、開発現場における変化をお教えいただけますか?
日本の製造業において「すり合わせ開発」による「職人技」が大きな強みです。技術者が各々のノウハウを持って開発を進め、品質の高い製品を作り上げてきました。
しかし、現在は製品が多機能化するとともに開発規模や関わる人が増え、従来の「職人技」に加えてチームプレイの重要性が高まっています。自動車や航空機など安全に関わる製品の開発現場では社会的ニーズと技術水準の高度化により、安全性やサイバーセキュリティに関する国際規格の要件を達成することが近年日増しに求められています。製品の多機能化による開発規模の指数関数的な増加、市場ニーズの目まぐるしい変化、開発期間の短期化が進んでいます。そして開発現場の役割の重要性が高まり、開発者のやるべきことは増えるばかりです。
-開発現場における課題認識に変化はありましたか?
職人技による開発とデジタルによる開発に起因する変容が混在し、開発現場が混沌とする中で様々な課題が生まれています。具体的に、開発プロセスは属人的であることが多く、現場の実態が可視化されていないこと、利害関係者間で開発現場の情報の共有がされていないことなどが挙げられます。
-その課題解決のためにどのような対応をしていますか?
現状を変えるためには、プロセスを可視化し、現状を把握することが必要です。そのためには、プロセスマイニングを用いて開発現場における設計活動の実際の一つ一つの流れを見える形にします。設計活動の流れを分析し、手戻りはないか、想定以上の所要時間を要している活動はないか、必要な活動がスキップされていないか、活動の順序が合っているか、何度も繰り返されている活動がないか等を探し、活動の最適化を図ります。このようにプロセスマイニングで実際の開発の流れを可視化することにより、開発の効率化と同時に製品開発の付加価値向上の可能性が生まれます。
-改善活動を進める上での悩みはありますか?
はい、多種多様な悩みがあります。例えばプロセスを適用すると開発が遅延する、あるいは展開したプロセスが徐々に形骸化するといったご相談をよく受けます。リーダーやマネージメント層の方からは、開発費用の実績値が計画値を超過して収支が赤字であることに関するご相談もあります。
-このような悩みを改善するためにどのようなことを行っていますか?
多くのコンサルティング企業はトップダウンの分析を行い、原因がある箇所を探すことが多いと感じます。これは開発現場に限らず、サプライヤチェーンのコンサルタントでも、人事コンサルタントでも、営業活動のコンサルタントでも、同様の傾向があります。私たちは実際のありのままの活動を見て、その悩みがどこなのかを照らし合わせた分析結果を開発現場に提供しながら、改善活動をお客様と一緒に進めます。
-プロセスマイニングに対する御社の取り組みを教えてください。
2010年代後半からプロセスマイニングについて海外調査を始めました。実際にオランダのアイントホーフェン工科大学に赴き事例発表会に参加しました。もちろん当時は開発現場でプロセスマイニングを活用した事例はほぼなく、購買や受発注などの業務フローが改善の対象でした。その後2020年に製造業の開発におけるプロセスマイニングの実証研究を開始し、同時期にプロセスマイニング協会に加入しました。並行してプロセスマイニングに関する無償セミナーの開催、メールマガジンによるプロセスマイニング紹介等を実施してきました。今年度も無償セミナーを開催する予定です。
-2010年頃からプロセスマイニングに関する海外調査を始められたとのことでしたが、そこから現在まで、プロセスマイニングを導入して大きくどのような点が変わったとお考えですか?
「データから何が見えるのか?」というデータ思考ができるようになりました。現状を改善するためには、「何が出来ていて、何が出来ていないのか」をチェックする必要があります。そこで見つかった問題だけを切り離して対応するだけでは不十分です。なぜなら切り離した問題から離れた箇所に原因がある、あるいは一見無関係に見える他の問題と繋がっている場合があるからです。プロセスマイニングを導入することにより、開発の実際の流れを俯瞰的に眺め、どこに原因があるのか、どの問題と繋がっているのかを大域的に確認しやすくなりました。
-プロセスマイニングに関して、今後の展望はございますか?
今までの改善方法にプロセスマイニングを加え、プロセスマイニングを基盤とする開発現場の改善活動のプラットフォームを作りたいと考えています。このとき、既存のALM(アプリケーション・ライフサイクル・マネジメント)や開発・テストのツール、プロジェクトマネージメントや課題管理のツールに変更を加えず、プロセスマイニングをプラットフォートにできることが大きな魅力です。計画時間や活動に要した時間や関連する品質データを表示できるダッシュボード機能が用意されているプロセスマイニングツールであれば、上手くいかなかったプロジェクトと失敗したプロジェクトのデータの比較・分析することも可能です。
-日本ではプロセスマイニングの導入が遅れているとの声もありますが、セミナーなどを開催されている中で、プロセスマイニングの導入が遅れている要因としてお気づきになったことがあればお教えください。
いくつかの要因がありますが、主なものは開発現場の場合、製品開発におけるプロセスマイニングの前例が少ないため、実際に導入した際にどのような便益があるのかをご存じの方が少ないことではないでしょうか。弊社では無償セミナーやメールマガジンを活用し、開発現場におけるプロセスマイニグの知名度の向上そして普及に取り組んでいます。
-現在はプロセスマイニングを開発フェーズでのみ使われているとのことでしたが、ツール自体は生産フェーズでも十分に現状の可視化をする上で有用だと考えられます。今後、さらに活用の幅を広げていかれるのでしょうか?
これは弊社の現在の事業ドメインの外側になりますが、ツールとして生産現場における活用方法について見解を述べさせていただけたらと思います。
生産現場では、開発を通して得られたデータやそれに基づく工程を実際に落とし込んでいく作業が行われています。開発段階のデータは生産段階でも活用されていますが、実際に生産ラインの工程を設計している人が参考にしているのは、実データや過去のデータであることが多いのではないでしょうか。更に生産ラインは一つではなく複数あるかと思いますが、その中での最適解が意識されることは少ないと感じます。生産の最適解を出すという点で、プロセスマイニングの活用の余地が大きい領域ではないでしょうか。
-未だ日本では認知度が低く、プロセスマイニングを実際に導入するまでに時間がかかることや、実際に導入まで至らないケースも多くあると思います。導入に至らなかったケースの共通点、また至ったケースの共通点があれば、ぜひ教えてください。
プロセスマイニングの導入に至らなかったケースには、三つの共通点があります。
一つ目は部門間の壁の問題です。プロセスマイニングを導入するには、そのためのスキルを持つ人材・チームと部門間の連携が必要になります。スキルを有する人材のアサインと部門間の連携がうまくいかない場合は導入が難しいのではないでしょうか。
二つ目はコストです。最近では企業の規模に合わせ、様々な開発のツールやインフラがベンダーによって取り揃えられています。他のツールやインフラと比較すると低コストですがプロセスマイニングのツールにも一定のコストがかかるため、実績や事例が少ないプロセスマイニングに関する予算を取得できない場合があります。どこに問題点・改善点・課題があるのかを発見するツールですので、効果が出るのに少し時間がかかります。お客様の状況によっては必ずしも問題の解決に直結しない可能性が高いケースもありますので、事前にPoC(Proof of Concept)を実施して有効性を確認しなければ予算を獲得するのは難しいのではないでしょうか。
三つ目は、データセキュリティの問題です。企業のデータはオンプレミスのものからクラウドのものまでいろいろあります。例えば実際にプロセスマイニングツールCelonisを導入するとき、多くの場合はクラウドにデータを乗せるため、データセキュリティとの天秤をかける必要が出てきます。ツール提供側も認証技術を採用してセキュリティ性を高めてはいますが、セキュリティ面の課題の解決が進めば導入が拡大していく可能性があります。
一方で、導入まで結びついたケースはこれらの問題がなかったことに加え、スモールスタートで実験的に導入することにしたお客様の決定が大きいと思います。導入して翌日に結果が出るツールではないため、長期的な目線で改善計画を実現する一つの手段として段階的に導入していけるかどうかも重要ですね。
-プロセスマイニングに限らず、今後は多くの場面でデータの共有・連携が求められることになると思います。その中で、日本においてデータ活用がなかなか進まない原因の一つに、先ほどお話があったデータセキュリティという課題があるのでしょうか?
データセキュリティはインフラ面での要因の一つではあると思います。しかしながら、それ以上に現在データを扱える人材の不足が大きな要因ではないでしょうか。収集したデータをどのような手法で分析するのか、またそれを使ってどのようにサービス改善や事業創出のアイデアにつなげるのか、その知識・経験が不足しているのではないかと分析しています。
このような状況においてプロセスマイニングツールを使うメリットがあります。様々なデータから活動の可視化によって、これまで見えていなかった活動自体が見えるようになること、分析に必要なビューや手段をツールが提供することでデータ分析のスキルの向上が見込めます。また、これまで現場のヒアリング等で使っていた時間を他に回せます。新たに確保した時間を使い、今後求められている機械学習やデータ分析・活用等の分野の調査や学習の時間に回せれば、データの共有や連携がさらに進むのではないでしょうか。
-これまでお話いただいた内容はビジネスから見た側面ですが、今後は欧米諸国のように、大学等の研究機関でもプロセスマイニングが取り上げられることが増えると考えられます。アカデミックな観点から、今後の産学連携などについて、何か展望やお考えがあればぜひ教えてください。
自動車業界に関しては、昔から産学連携が多く大学と自動車メーカーや関連企業が連携しています。新しい技術の開発や新たな枠組み作りに向けた様々な取り組みが進められています。弊社は、その中で産学連携の授業や勉強会の中で講師を担当させていただくことや、開発現場の現状をお伝えする機会があります。このような産学連携の取り組みの中で、いずれプロセスマイニングをお伝えする機会があればいいですね。
個人的に産学連携の中で期待していることは、自動監査だけではなくアセスメントまでできるツールの研究です。現状、プロセスマイニングでは、基準となるプロセスモデルに対して「何ができていて、何ができていないか」を可視化できますが、更に踏み込んでそのアセスメントまでできれば、人の代わりにもなるのではないかと考えています。将来的にこういった部分の研究が広くなされることを期待しております。そのために必要なデータは各企業様がお持ちですので、産学連携で取り組めば可能性は広がり、実現性は高まるのではないでしょうか。
-トップシェアを誇るCelonis以外にも、UiPathやSAPなど様々な会社がプロセスマイニングベンダーの買収を進めておりますが、その中でCelonisが持つ強み・特徴を教えてください。
やはりツールとしての完成度が強みであり、ハイエンドなツールであると実感しています。例えば、ダッシュボードが作りやすかったり、用途に合わせて仕組みを構築しやすかったり、ユーザーフレンドリーな部分が多いと感じます。またツールを売るだけではなく、セミナーや勉強会などツール導入後を見据えたサポート体制があるのも強みの一つだと思います。
一方でやはりハイエンドなツールですのでコストがかかり、費用対効果の観点から一部機能の利用では投資した費用に見合った効果を得られない可能性があります。
-プロセスマイニングを知った際にどういった点が優れていると感じられましたか?
日本人が苦手とする「データに着目する」という点が本質をついているなと感じました。データを分析して活用することが具体化されているツールを見て、当時は弱点を突かれたような感覚になりましたね。
-現在、自動車産業ではEVシフトや、いわゆる「ファウンドリー生産」の拡大など、大きな変革の時代に突入しているとの声もあります。このような自動車産業の変化に対してはどのようにお考えですか?
変わる部分と変わらない部分とを明確に分けて考える必要があると思います。
確かに、新しい国際規格や技術が出てくれば、そのコンセプト・スキームや具体的な方法論を勉強する必要があり、開発の現場もどんどん変化していかなければいけない部分はあると思います。しかし、どのような変化が求められたとしても、それを解釈し対応を促すのが「ヒト」であることに変わりはありません。どのように人を動機付け、動かしていくのかという普遍的な問いは今後も変わらないと思います。
また、変化をどのように見るのかという点も重要です。TESLAやApple Carなどの登場によって自動車産業の構造が大きく変わっていくことは事実です。それに対してサプライヤチェーンや物流といった1つ1つの枠組みでの変化だけではなく、それらがどのように繋がりプロセスに影響を及ぼすのかという視点を持つこと、そして適宜視野の調整をしながら変化を捉えることが必要だと考えます。
-タスクマイニングとプロセスマイニングの棲み分けについてはいかがお考えでしょうか?
タスクマイニングはローカルな作業の最適化という位置付けで、小さいグループやある工程の中での作業の最適化に適していると考えています。
一方で様々なチームやグループが繋がり開発や生産をする広い範囲のプロセスを扱うためには工程だけではなく、そこに携わる人に関するデータも見ながら改善し最適化をすることが求められるため、プロセスマイニングが必要になってくるのではないでしょうか。
-Business Cube & Partners社としてプロセスマイニングを活用されていく中で、将来の展望をお教えいただけますか?
日本はボトムアップのアプローチが得意ですので、中小企業を含めタスクマイニングの導入をまずは拡大させ、その積み上げで将来的にはプロセスマイニングの導入に繋げていきたいと考えています。
様々なデータを取得し可視化したとき、現場では気分がいいとは言えない場合もあると思います。これまで蓄積されてきた熟練の技術やノウハウに敬意を払う必要があります。また弱みや改善点に注視しすぎて強みの強化を忘れてはいけません。時間はかかると思いますが、それぞれの企業に適した形でプロセスマイニングの拡大に寄与できればと考え、弊社はプロセスマイニングの導入や普及に関わる活動をしています。そして最終的には、プロセスマイニングというツールを通じて活動の最適化を図り不要な活動から解放され、より創造的な仕事や学習に時間を費やせるような世界に変革していきたいと考えています。
-貴重なお話をお聞かせいただきまして、誠にありがとうございました。
今回お話をお伺いしたビジネスキューブ・アンド・パートナーズ株式会社では、製造業の開発現場においてプロセスマイニングの効果の検証をご支援するサービスを提供しております。1か月前後の期間で、開発現場の実際のデータを用いてプロセスマイニングの有効性とその効果を確認することができます。詳細はこちらからご覧ください。
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