【プロティビティ】佐渡友氏が語る日本のプロセスマイニング活用の現状と展望
今回は、デジタルで顧客のガバナンス・リスクマネジメント・内部監査・業務改善を支援するグローバルコンサルティングファーム プロティビティ社のマネージングディレクター・佐渡友 裕之氏に、日本におけるプロセスマイニングの現状や課題・展望などをお話しいただきました。
-はじめに、日本におけるプロセスマイニングの歴史と普及の現状について、お教えください。
当時、プロセスマイニング協会代表理事の百瀬公朗氏と一緒に私も活動に携わっていましたが、プロセスマイニング自体は4年ほど前に日本に紹介されました。そして、4年経った現在、当初の私の見立てよりも普及するスピードはかなり遅いと感じています。
プロセスマイニングが発祥したドイツと同様に、日本企業はどちらかというとプロセスを重視する風潮があるので、当初はもう少し早く普及すると思っていました。しかしながら、これも日本企業の特徴なのですが、新しいものに手を出すことには非常に慎重です。欧米や他のアジア諸国と比べて、「ある程度『いける』という感触を得たら、新しいことにお金・時間・ヒトを投資しトライしてみる、ダメであれば早々に決断し、次のトライに移る」ということがなかなかできません。これがプロセスマイニングの普及スピードが上がらない理由の1つにもなっていると感じています。
この状況を打開するためには、プロセスマイニング協会や我々プロセスマイニングを担いでいるコンサルティング会社も含めて、業界全体としてもう少し啓発活動が必要だと思います。更に、プロセスマイニングソリューションを提供する会社も群雄割拠状態で、「プロセスマイニングで何ができるのか」という問いに対する統一的且つ体系的な見解を示せていないと思います。言い換えるならば、各社が自分の得意分野でしか語っていないということです。なので、プロセスマイニングの振興を図る業界のなかで、統一したマーケットへのプロモーション活動が必要だと思っています。
-日本企業におけるプロセスマイニングの活用は進んでいるのでしょうか?
スピードは遅いですが、プロセスマイニングソリューションで今のところ一番シェアが高いCelonisに関していえば、日本企業で自らライセンスを買って導入し、日々利用している会社がようやく二桁くらいになってきました。それからCelonisではPoV(バリュー実証)という言い方をしていますが、いわゆるPoC(概念実証)を始めたお客様はかなりの数になったと感じています。
Celonisを例にすると、プロセスマイニングには大きく分けて3つのメリットがあります。一つ目は、現状の業務プロセスの可視化です。二つ目は、あるべき理想の姿と現状の乖離度合いとその内容を正確に把握することです。そして、三つ目は、その乖離に対する改善アクションを人手ではなく、ソフトウェアの力を借りて自動化していくという点です。
しかしながら、プロセスマイニングソリューションを導入した日本企業は概ねこのうち一つ目の使い方しかできていません。一方、欧米ではプロセスマイニングが使われ始めてもう10年以上経ちますので、一つ目と二つ目のメリットだけではなく、いまではプロセスマイニングを日々の業務に埋め込んで、三つ目のメリットを享受しながらトップラインの伸長と業務の効率化によるコスト削減を図っています。この点では、日本企業は2周遅れになっていると私は感じています。
-現在の日本にはプロセスマイニングが普及する土壌があるとお考えでしょうか?
先ほど言いましたように、日本は欧米と違って、結果だけではなくプロセスを重視しますので、プロセスを見るためのツールであるプロセスマイニングは非常にフィットしていると考えています。プロセスマイニングのメリットが正しく理解されれば、爆発的なブームになる可能性も秘めていると思います。
ただ、日本企業には「右に倣え」みたいなところがあります。25年ほど前にERPが初めて日本に紹介されたときも、最初はなかなか普及しませんでした。しかしながら、いくつかの大手企業が採用し始めてると、大小さまざまな企業がERPを導入するようになり、現在に至っているという状況です。同じような現象がプロセスマイニングに関しても起こり得る可能性は十分にあると思います。
-経営層や若手層の間ではプロセスマイニングへの関心が高い印象があります。一方で、導入の拡大には中間層が鍵になるかと思われますが、どのようにお考えでしょうか?
中間層は、経理・製造・販売・ロジスティクスなど多岐にわたる業務を現場で支えています。彼らに自分ごととして捉えてもらうことで、プロセスマイニングのサポーターを拡大していけると考えています。そのためには、それぞれの業務のなかでプロセスマイニングがどのように活用できるのかを具体的に示していくことが必要です。例えばプロティビティ社ではリスクマネジメント・内部監査・業務改善などを得意としていますので、この分野におけるマーケティングや営業活動のなかで、最新のデジタルツールとしてプロセスマイニングのプロモーションを行なっています。
-プロセスマイニングの普及に関して、コンサルティング会社だからこその強みはありますか?
ツールドリブンではなく、業務ドリブンであることが大きな強みです。例えば弊社では、強みとする内部監査や内部統制の分野において、それらをより効果的、効率的に行うための手段として、我々がもっている独自のフレームワークやメソドロジと併せた形でプロセスマイニングを提案することができます。ツールを売るのではなく、あくまでお客様の業務的な目的のための手段の一つとして提案することができることは、コンサルティング会社ならではの強みであり、それが我々のミッションであるとも考えています。
-コンサルティング事業を行う企業が増加し多様化するなかで、プロティビティ社としてどのような展望を抱いていらっしゃいますか?
もともとはリスクマネジメントや内部監査を強みとしていますが、現在はこれらに加えて、テクノロジーコンサルティング(TC)や私が担当するビジネスパフォーマンスインプルーブメント(BPI)といった領域が伸びています。実際に米州や欧州のオフィスではTC やBPIの売上高に占める割合が高くなっています。日本においてもこれらの領域の成長がまだまだ見込まれると考えていますので、プロセスマイニングをはじめとするデジタルツールを活用し、BPIやTCの領域を拡大し、総合コンサルティングファームを目指していきたいと考えております。
-今後、特にどのような業種でのプロセスマイニングの活用が重要になるとお考えでしょうか?
あらゆる業種でプロセスマイニングは役に立つと思います。少子化によって人手が足りなくなるところは、プロセスマイニングで「業務のありのままの現状」を可視化することで、特に人手がかかる箇所を発見し、そこを例えばRPAなどで自動化することは、業種に限らず効果的なことだと考えています。
-プロセスマイニングによる「業務の無駄の発見」は、少子高齢化の進む日本において非常に重要なポイントになるという意見もありますが、プロセスマイニングが社会に浸透すると世界はどのように変化するとお考えですか?
プロセスマイニングは、あくまで単なるデジタルツールの一つに過ぎません。個人的には、それだけで完結するソリューションではなく、一つの要素だと思っています。プロセスマイニングはとても有益なツールではありますが、システムで司る業務しか見られません。「システムデータがなければ何も見えない」というのがプロセスマイニングの限界です。
しかしながら、実際の業務はシステムだけで成り立っているわけではありません。ヒトがマニュアルでやっている仕事もいっぱいあります。また、システムとまではいかないけれど、ExcelやWordなどを使ったデスクトップ作業もたくさんあります。これらはプロセスマイニングだけでは見られないので、ここをどうするかを解決しないといけません。
デスクトップで行っている作業は、タスクマイニングで可視化・分析できます。但し、プロセスマイニングソリューションに比べて、タスクマイニングソリューションはまだまだ洗練されていません。Celonisをはじめとした各ソリューションプロバイダーは、自社のソリューションにプロセスマイニング機能とタスクマイニング機能の両方を統合させようとしていますが、まだ完全に融合されるには至っていません。
更に、ヒトがマニュアルで行っている仕事の可視化が問題です。これはIoT的な話になります。実現するにはまだ時間がかかると思いますが、ヒトや空間にセンサーを付けて、すべての動きをキャプチャー、デジタルデータ化して可視化していくということが必要です。
究極の姿としては、以上のすべてをデジタルデータとして把握できるようにして、それらをシステムでマネジメントすることが必要です。このマネジメントシステムは、いわゆるBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)ソフトウェアが進化した形のものになると考えています。私はBPM(の進化系)を基盤ソフトウェアだと考えていて、この基盤のなかで「タスクマイニング的なもの」、「プロセスマイニング的なもの」、それからマニュアルの動きをキャプチャー、データ化した「IoT的なもの」が統合されて、この三つの要素でビジネスプロセスを統合的にマネジメントしていくというのが、この世界の究極的な姿だと考えています。
-依然として、海外と比べて日本ではプロセスマイニングに関する研究者や学生が少ないです。今後、業界全体で統一的な啓発活動をしていくということに関して、アカデミックな部分でも活発なコミュニティを育成していくことが必要だと考えられますが、いかがお考えでしょうか?
その通りだと思います。しかし、そもそもプロセスマイニングの存在すら知らない学生も多いのではないでしょうか。データ分析を学んで、データアナリストになりたいというのは、ここ数年のトレンドになっているかと思いますので、データ分析のなかでも、業務プロセスという切り口で行うプロセスマイニングという手法があると周知することは有効だと思います。
ソフトウェアやハードウェアのパワーが乏しい時代はプロセスマイニング理論を具現化することは相当難しいことでした。しかし今は、コンピューティングパワーの飛躍的な増大と素晴らしいソフトウェアの誕生により実現が可能になっいます。このような経緯も含めてプロセスマイニングの歴史を知ることは、学生にとっても興味深いことなのではないでしょうか。
-最後に、これまでプロセスマイニングに携わってきたなかで、「プロセスマイニングの威力」を感じたような事例があればお教えください。
これは弊社でグローバルに事業展開されている日本のエレクトロニクスメーカー様のご支援をしたときの事例です。先方のグローバル内部監査部より、「内部監査部として、各拠点の業務プロセスのより詳しい理解のために、プロセスマイニングという最新のデジタルツールを活用したい」という依頼を受けました。そこで、ある拠点の1年間のデータをお預かりして、購買プロセスを可視化しました。分析する前に先方は、「その拠点の業務プロセスは日本ほどではないがまあまあ整理されているので、多分1年間で100パターンぐらいじゃないですか」とおっしゃっていました。
ところが実際に我々がCelonisを使って分析した結果、およそ3400ものパターンが出てきました。これには先方も驚いて、「我々が知らない業務パターンが購買プロセスのなかだけにでもこれほどあるということは、そのなかにはきっと業務上のボトルネックやコンプライアンス的に問題のある業務プロセスが潜んでいる筈だ」とおっしゃいました。この気付きを経て、その後は彼らの監査プロセスのなかにプロセスマイニング分析を定常的に埋め込むことになりました。私自身もこの件につきましては、プロセスマイニングでしか成し得ないパワーを感じることができました。
-貴重なお話をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。