【アビームコンサルティング】大村氏に聞くプロセスマイニングの現在
今回は、データドリブンで全業種に対して戦略からIT保守まで一気通貫でサービスを提供するアジア基点のグローバルコンサルティングファーム・アビームコンサルティング株式会社の大村 泰久氏に、アビームコンサルティングにおけるプロセスマイニングの活用状況やプロセスマイニングの現状についてお話しいただきました。2022年6月30日以来、2回目のインタビューとなります。前回のインタビュー内容はこちらからご覧いただけます。
-前回インタビュー時(2022年6月30日)、プロセスマイニングと親和性の高い業界として「製造業」、これから使用が伸びていく業界として「金融業」を挙げられていましたが、現状はいかがでしょうか?
製造業が最も親和性が高いという認識は変わりませんが、従来のデータを用いた方法では、得られる価値が頭打ちになってきていると感じます。基幹システム内のデータだけでは実態把握として不十分であり、画像認識やタスクマイニング*などで取得した周辺データと組み合わせる動きが始まっています。
*タスクマイニング:社員のPC操作履歴(PC立上/アプリ起動/データ入力/コピー&ペーストなど)を分析して、業務の改善点や課題を見つける分析手法やツール
また、金融業でのプロセスマイニング導入も製造業に追いつき始めていると感じています。元々、製造業ではSAPのテンプレートを活用できたため、導入しやすく親和性が高かったのですが、周辺データを組み合わせることで独自のシステムを使用している金融業と状況が似通ってきました。
むしろ、監査等に対応するために適切にデータが残っている金融業の方が、一度作ったシステムを横展開することは難しいものの、適切な分析・アドバイスがしやすくなっています。このようにプロセスマイニングのステージと扱うデータが変化してきたと感じています。
-前回のインタビュー時、プロセスマイニングの認知度が不十分という話がありましたが、現在は向上していると感じますか?
徐々に認知度は上がってきていると感じますが、急激な変化ではありません。
プロセスマイニングにより、大きな価値を実現している企業はまだ多くないのが現状です。当初、我々は生産性、オペレーターの工数削減に着眼をしていました。例えば手戻りの原因を抑制することで、効率性・工数の削減を価値として捉えていました。ただ、その実態は、多少なりとも価値は得られたとしてもプロセスマイニングを導入する投資と比較するとROIは決して高くないことが分かってきました。そこでキャッシュコンバージョンサイクル*など、企業が求める効果指標の測定を始めました。こういった新しい指標が浸透すると、単純な工数削減とは異なる結果が現れ始め、企業も新たな価値を認識するようになります。これによりプロセスマイニングがさらに普及していくのではないかと考えています。
* キャッシュコンパージョンサイクル:企業が商品等を仕入れて利益に変換するまでの日数
-プロセスマイニングの普及において、鍵となる要素は何だとお考えですか?
最も重要なのはマネジメントの理解です。
従来の投資判断では、価値や収益性といったROIを重視していました。しかしデジタル時代へ移行し、導入前に高い精度でリターンを予測することが難しくなりました。企業にとっての価値が明確となる前に導入を決断しなければならないため、失敗を恐れずチャレンジングに取り組むマネジメントの意識改革が必要です。RPA*は現行業務の自動化のため、導入後の価値創造の試算は高い精度で可能でしたが、プロセスマイニングの導入はより複雑で高価なため、まだそのレベルには達していません。マネジメントが他社事例から自社での価値創造を試算し、ワクワクしながら管理できる状況になれば、さらに普及が進むでしょう。そういった環境づくりも重要です。
*RPA(Robotic Process Automation): データ入力やレポート作成など、ルールベースの業務をソフトウェアロボットにより自動化すること
-マネジメントの考え方を変えていくのは難しいと思いますが、具体的にどのようなアプローチでマネジメントへの浸透を図ることができるでしょうか?
マネージャーが共感するユースケースをもっと増やしていくことが効果的だと考えます。
日本の企業では人員削減が難しく、リスキリングも容易ではありません。そのため工数削減を実現しても必ずしも人件費削減につながらず、経営者視点では価値が限定的です。先ほども触れましたが、キャッシュコンバージョンサイクルへの貢献など、経営者が重視するKPIで効果を示すことができれば、より共感を得られマネジメントへの浸透が進むでしょう。このような経営者目線のユースケースを増やすことが重要です。
-前回のインタビューでは、中小企業のプロセスマイニング導入が遅れているとのことでした。ユースケースが増えれば中小企業への導入も進むと考えられますが、導入にあたってどのような障壁が予想されますか?
中小企業にとって、プロセスマイニングの導入費用が大きな障壁となっています。
現在のプロセスマイニングツールは高価であり、中小企業が容易に負担できる金額ではありません。しかし、他社ではありますが興味深い事例として、工業団地において同一システムを共同利用することで導入を実現しました。この方法により複数の企業で導入コストとランニングコストを分担することが可能になりました。このような費用負担の新しいアプローチが中小企業へのプロセスマイニング普及に必要なのではないでしょうか。
-次にアビーム社内のお話をお聞きしたいのですが、プロセスマイニングを扱える人材はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
アビームコンサルティングでは独自の認定制度があり、プロセスマイニングをビジネスで実践できる人材が全社で約60名います。また、毎年約360名の新入社員を迎えていますが、2年前からCelonisを新人教育に導入したことで、プロセスマイニングに精通する社員数が年々増加しています。
さらに、今年4月からCelonisソリューションの位置づけをサービスラインから戦略部門にも配置したことで、コンサルティングの上流工程に組み込まれるようになりました。これにより、これまで以上に幅広い業務領域でプロセスマイニングを活用できるよう変革を進めています。
-社内でプロセスマイニングの使用と教育が浸透していった経緯について教えていただけますか?
プロセスマイニング普及の最大の要因はコロナ禍の影響です。
パンデミックによりその利用が急激に増加しました。コロナ以前グローバル企業では新たな取り組みを実施する際、現地に赴き、関係者全員を集めてワークショップを開催し現状業務についてヒアリングを行うのが一般的でした。しかし、コロナ禍で海外渡航が不可能となりTeamsやZoomでのオンライン会議が主流となりました。この変化により発言力の強い一部の人々以外の会議参加が困難になりました。この状況が顕著になったことで現場の声を聞く前にファクトを捉える手段としてプロセスマイニングの活用を開始しました。結果として、コロナ禍によってプロセスマイニングの適用場面やビジネスアジェンダが大幅に拡大しました。
コロナ禍が始まり、最初に取り組んだのはSSC*の可視化でした。名古屋にあるSSCでは郵送された領収書の処理業務を行っていましたが、コロナ禍により全員がリモートワークになったことで物理的な領収書量の把握が困難になりました。その結果、処理量を見誤り月末に不必要な残業が発生してしまいました。これらの業務をデジタルで可視化することにより、過去の傾向や現在の実態を共有できるようになりそれに基づいた効率的な業務遂行が可能となりました。
*SSC(Shared Service Center):共通する業務を一つの拠点に集約し運営するための組織
この状況は現在も続いておりフィリピンやインドにあるSSCの業務を日本から直接把握することは困難です。しかし、これらの業務をデジタル上で可視化することで業務内容の確認や改善が可能になります。このような取り組みはグローバルビジネスを展開する上で不可欠だと考えます。
-日本から海外支社に対してプロセスマイニングでファクトを見ていくという事例は多いのでしょうか?
はい、多いです。アビームには特徴的な点があります。他のコンサルタント企業では日本で委託された案件を海外で実施する際、現地に拠点を持つ同グループ企業にプロジェクトを引き渡す必要があります。一方、アビームでは現地のメンバーと日本からのメンバーがハイブリッドで業務を行います。このハイブリットな体制で最初に行うのが、現地の実態を先にファクトベースで把握をし、課題や論点を整理した上で、海外支社とのワークショップに臨むことが多いです。そうすることで、時に言語的な難しさを抱える日系企業の本社の方達も、声が大きい少数派に押されない、適切な価値を得られるようにアプローチすることが可能になります。この言葉の壁を超える手法が日系企業に浸透しはじめていると感じます。
-続いてツールに関してお聞きしたいのですが、Celonisに関して特に優れていると感じる点を教えてください。
OCPM(Object-Centric Process Mining)が優れていると感じます。
これは異なるプロセスブロックを各タッチポイントで個別のキーを用いて接続することを可能にします。従来は人間が行っていたこの作業を技術的な領域に導入し可視化を実現しました。現在、この考え方はCelonisでしか実現できていません。結果として、従来人間が行っていた分析作業の効率化も得られますが、それ以上に、各組織の役割を超えた分析が可能になりました。例えば出荷が遅延したその原因は物流にあるのか、これは従来も同一プロセスブロック内にあったため把握が出来ましたが、それだけではなく上流工程にある生産や原材料の調達まで遡って遡及分析を行う場合、特にMTS(Make to Stock)のビジネスモデルにおいて、一気通貫のキーが無かったため、分析が難しかったです。そこにおいてOCPMの出現は、ある製造業様の事例として、実が最上流の原材料調達における発注業務の属人化が原因だったことをつかむなど、実際の効果を得られるところまで来ています。
-OCPMにおいて、部署間などキーを変えて一気通貫にデータを見るには、さまざまなデータ取得が必要だと感じますがそこに障壁はないのでしょうか?
仰る通りでつなげるキーが必要なので難しさは依然として残っています。しかし、以前は同じキーでしか一気通貫に見ることができなかったものを、複数キーで緩やかにつながる状態にできたことは大きな進歩だと感じています。
-最後に改めてお伺いさせてください。プロセスマイニングが会社組織や企業価値に与える影響についてどのようにお考えになりますか?
プロセスマイニングの影響はAIに近いものがありますが、主に効率性と発想性の二つの面で現れると考えます。これまでCelonisは在庫回転率の向上や工数削減といった効率性に主に焦点を当ててきました。しかし、次の段階としてCelonisを通じて新しいアイデアを生み出すという発想が生まれています。
これはChatGPTなどの生成AIに近い概念です。生成AIでは匿名化された大量のデータが蓄積されていますが、同様のことがCelonisでも実現すれば企業は自社の従業員が知らない他社の事例を参考にしてサービスを提供できるようになるでしょう。
つまり、Celonisやプロセスマイニングは効率化を図りながら新しい発想を得るプラットフォームとしても大きな価値があると考えます。
-貴重なお話をお聞かせいただきました、ありがとうございました。
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