インタビュー

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【MRVS】内田氏の考える日本とプロセスマイニングの親和性と普及への課題

今回は、SAPやRPAの導入支援、BIソリューションなどを通じて、企業戦略の立案や経営課題の解決に向けた様々なサービスを提供するMRIバリューコンサルティング・アンド・ソリューションズ株式会社の執行役員DX事業本部長 内田 琢也氏に日本固有の文化・環境とプロセスマイニングの親和性や普及への課題、将来の展望をお話しいただきました。

 

-初めに、日本におけるプロセスマイニングの現状をお教えいただいてもよろしいですか?

我々がプロセスマイニングに携わり始めたのは約3年前ですが、その当時に比べると最近「プロセスマイニングをやりたい」という話を耳にすることが多くなり、注目度の高まりを感じています。

一方で、お客様にプロセスマイニングを正しく理解していただけておらず、過大な期待を抱かれていると感じることも事実です。とりあえず“PoC (Proof of Concept)”で始めてみたいというお客様は非常に増えていますが、最終的に継続して使い続けていただけているお客様は、残念ながらそのうちの2割程度に留まっています。

 

-継続して使い続ける方が少ないのは何故なのでしょうか?

大きく分けると三つあります。一つ目は費用対効果があまり得られなかった。二つ目は現状の可視化の結果、何も問題点が見つからなかった。そして、三つ目が今後運用していくためのデータ準備が大変すぎる。というようなご意見を頂戴することが多いです。

この中で私が注目するのは、費用対効果という観点です。そもそも、プロセスマイニングは現状把握(現状の可視化)を行い、問題点を発見し、それを改善することで初めて全体の改善を生み出そうという考え方です。プロセスマイニングを用いた「可視化」のみでは効果が出ないのは当然なのですが、この点を誤解されているお客様が多いように感じます。

プロセスマイニングは、レントゲンやMRI検査によく例えられます。「何かがおかしいな」と異変を感じたら、医師に問診をしてもらい、レントゲン検査を受けて詳しく調べます。もしもそこで病気が見つかったら、「治療をする」という形が通常かと思います。

先ほどの誤解の例では、レントゲン検査だけで終わってしまっています。本来は、病気の早期発見から治療に繋げるということが大事であるのに、検査することが目的になってしまっているという印象です。

 

-プロセスマイニング業界全体としてプロセスマイニングについての統一的な見解を固める必要があるとの声もありますが、いかがお考えですか?

ツールの導入をするためには、第一にプロセスマイニング自体をきちんと理解しないといけません。良いツールはたくさんありますが、やはりそれなりに費用が掛かります。導入の段階で何ができるかを試していたら、「費用対効果が出ない」、「何も問題点が見えなかった」というような感想を抱かれても無理はありません。

だからこそ、「プロセスマイニングで何ができるか?」という疑問に対する統一的な見解を示すというのは重要です。正しく理解することで、「さらに継続的に見るにはこちらのツールの方が良い」、「このメソッドの方がデータ整備をやりやすい」というような議論になるはずです。正しい理解がないまま、高価なツールで「お試し」をしているからこそ、ギャップが生まれてしまうのではないでしょうか。

 

-SAPなどを導入している大企業でしたら、比較的スムーズにプロセスマイニングを導入できると思いますが、そうでない企業がプロセスマイニングの導入を目指すとき、何から始めれば良いとお考えですか?

数千億程度の売上がある企業でしたら、さすがにシステム無し、つまり手作業でオペレーションしていることはないので、そのような大企業がプロセスマイニングを始めやすいのは事実です。

一方で、そうでない方々が恩恵を受けられないわけではありません。ひとつのきっかけとして、プロセスマイニング協会のリリースする(2022年3月18 日リリース)“みんなのプロセスマイニング”だと思います。「いつ受注したのか、いつ発送したのか」というようなことをエクセルベースで良いので記録しておくことで、同じような効果を得られるはずです。

「データが揃っていなければ!システムがなければ!」というのは日本の悪いところで、何かとシステムやツールが先行してしまいますよね。例えば、元々ERPと言うのは単なる「考え方」でした。全体のリソースをどのように最適に使っていくのかを捉えるという理論でしたが、今や「ERP」と聞くと、皆さんはERPパッケージを想像されるのではないでしょうか。BPMやSCMも理論であったものが、どうしてもツールに置き換わってイメージされてしまうのです。

今回のプロセスマイニングも元を正せば、学問であり、考え方です。それを効率的に、簡単に実現できるようにしたものがツールというだけのことですが、ツールが先行してしまうというのが現実です。これは海外と日本のギャップだと思いますね。

 

-日本固有の環境・文化はプロセスマイニングの普及にどのような意味を持ちますでしょうか?

まず、学生の方のみならず、企業人、もちろんIT系の方だけではなく、一般のビジネスユーザー、会社全体の最適化を考えるような上層部の方などあらゆる方々が気軽に学べる環境が必要だと考えています。そこで、「プロセスマイニングでこういうことを明らかにしていけば良い!こういうところに私たちの改善のポイントがあるのだ!」ということを理解できることが重要です。

日本の文化は、プロセスマイニングに合っていると私は思います。例えば、不良品に対する考え方について、アメリカとヨーロッパ・日本で比べると決定的に異なります。5%の確率で不良品が混じる商品を考えたとき、アメリカでは最初から105個作って納めようとします。一方、日本やドイツなどは、品質を高め、限りなく不良品を0にしていこうとします。だからこそ、工程やプロセスを大事にしてきた日本の御国柄は、プロセスマイニングと非常にマッチしていると思います。

 

-ヨーロッパ各国と日本は共にプロセス重視ということでしたが、一方でヨーロッパに比べてプロセスマイニングの普及が遅いという声もあります。この要因はどこにあるのでしょうか?

日本企業が必ず突き当たる壁は「部門」です。一つ一つの仕事が部門の中で閉じていることが多いです。具体例を話しますと、ある会社では受注業務がボトルネックとなって、最終的にお客さんに届けるまで日数がかかっています。そこで、「受注業務を徹底的に効率化しましょう!」と聞くと、これは一見素晴らしいことに感じます。

実際に、受注担当部門が施策を一生懸命考えます。その結果、今まで1日に100件しか処理できなかったものが、300件処理できるようになり、「これは素晴らしい!」と評価されます。でも製造部門からすると、これまでの1日100件で生産計画を立てていたのに、一気に3倍ものオーダーが入ってきても、急には対応できません。結果的には、いくら受注のところを早くしても、最終的にお客様に納品するのは以前と変わらない時間がかかっていますという事態が起きてしまいます。

それぞれの部署が単独で効率化を考えていると同じようなことはいくらでも起きます。日本企業は組織の縦割りで、「自分の部署は一生懸命に効率化に取り組んで、コストダウンを図っている」と言う方は多いのですが、自分たちのやったことが隣の部署にどう影響しているかについてはあまり意識していません。私としては、これには問題意識を持っています。

 

-組織体系の話に関連しまして、特に金融業は古い商習慣が残っているなどとの批評も多くありますが、プロセスマイニングとの繋がりはいかがお考えですか?

確かに、金融は効率化の余地は多くあるのも事実ですが、そこに対してお客様自身がそれほど魅力を感じてらっしゃらない印象です。一方で、不正防止・コンプライアンス・リスクマネージメントには非常に敏感です。

実は、プロセスマイニングには二つの使い方があります。一つは改善活動につなげるための現状分析です。そして、もう一つは、正しく処理が行われているかをモニタリングするチェック機能としての使い方です。この使い方は、今後ますます広がるであろうと思っています。

例えば、100個の注文を受けました。その後、電話がかかってきて、「あの100個のオーダー、10個追加してもらえますか?」と言われます。そこで「100で注文を受けたけど、110に変更しておいて」と事務担当者に伝達します。担当者は、100を110に訂正します。「これで売上も上がって、お客さんも満足してくれるからよかった!」と、一見すると問題は無いように感じます。

しかし、企業には受注金額に応じて、誰の承認を受ける必要があるのかというルールが必ず決まっています。もし1個1万円だとすると、最初の100個だったら100万円なので、この会社では課長の承認を受ければOKとします。しかし、100万円より高額なのであれば、課長の承認ではなく、部長の承認を受けなくてはならない場合は問題が生じます。つまり、先ほどのプロセスだと、ルール違反になるわけです。しかし、担当者もみんな良いことだと思って臨んでいるから、一見誰も悪くないですよね。このようなことは、日本の企業で当たり前に起きています。

もちろん、「そういうことをしてはいけません」と教育するのも大事ですが、そのようなことができてしまう仕組みがそもそも問題だと私は考えています。特に、銀行だけではなく、証券や保険ではそのような不正によって、時に大きなお金が動きます。世の中で起こっている数十億円横領というような大きな事件は、ちょっとした不正プロセスをきちんと捉えていないことが発端であったりします。何十年にも渡って不正が行われていたことに誰も気づきませんでしたということもよくあります。もし正確にプロセスを捉えていたら、「このオーダーは必要な承認を得ているのか?」と確認ができます。

日々の取引をモニタリングすることは企業としては重要であり、プロセスマイニングであれば、「どこの取引がどのようなプロセスで動いているのか」ということをリアルタイムで捉えられます。その確認のために課長や部長がいると言う人もいますが、やっぱり人間任せにしているうちは全ての問題や不正は見抜けないでしょうね。

どうもプロセスマイニングは「効率化」の印象が強いかもしれませんが、実は「監査」の方がすぐにでも効果を感じることができます。「本来あってはならないようなプロセスがあったら、アラートを出す」というようなことは、すぐにでもできるはずです。これを人間でやろうとすると非常に大変でしょうから、これからは監査での利用もどんどん増えてくると思います。

 

-プロセスマイニングとRPAのシナジー効果についてはいかがお考えですか?

私たちがプロセスマイニングを扱い始めたのは、RPAがきっかけです。プロセスマイニングでボトルネックを見つけて、そこをRPAで自動化に繋げていくということが狙いでしたが、やはりそのやり方では効果が限定的になってしまいます。

「プロセスマイニングでボトルネックを見つけ出し、それを最適化する」というのは順調過ぎる話で、実はシステムログだけでは見えないような手作業が周囲に溢れています。そこも含めて可視化し、「何故このプロセスからこのプロセスに進むのにこんなに時間かかっているの?なぜなら、手作業がとても多いからですね」ということをきちんと理解した上で臨まないと、本当の改善に繋がらない。

あとは、全てのボトルネックを見つけて自動化できれば良いのですが、実際にはそうはいきません。何から始めたらどれくらいのインパクトがあるのか、このボトルネックを解消したらどこに影響が出るのか、具体的に何日短縮されるのかといったシミュレーションをしながら、自動化を進めていくことが今後は主流になっていくと思います。逆に、私どもがそうしていかなくてはならないという使命感・危機感を持っています。

 

-現在、多くの文系学生がデータサイエンスに興味を持ち始めています。一方で、やはりデータサイエンスという理系的な響きから敬遠してしまう学生や文系出身の方もいると思われます。今の時代、文系・理系と分断するのはナンセンスではありますが敢えて分けるならば、文系の人間がデータサイエンスやプロセスマイニングを学ぶ意義はどこにあるとお考えですか?

「プロセスマイニングはITの専門家が使うものだ」と誤解している方が多いと思います。そうではなく、経理や営業などの一般ビジネスユーザーが使いこなせるようになるというのが究極の絵姿です。

プロセスマイニングもそうですが、データマイニング・データ分析・データサイエンスは、数学が得意な一部の特別な人たちのものだと思われてしまっていますよね。しかし、データサイエンスなどの考え方は、経理や営業などのあらゆるビジネスユーザーに有益なはずです。

実際に扱えるということと、その世界を理解するということは、似て非なることです。私は、すべての人がその世界観を理解すべきだと思っています。例えば、「RPAって、システム部門が何かを効率化をしてくれるみたい」くらいの認識ですと、システム部門が「無駄な仕事はありますか?」と聞くと、「ありますよ、毎日こうやって紙で伝票が来るので、全部打ち直しているんです。これって、RPAが解決してくれるんですよね?」と答える人が出てきます。もちろん、「いや、そんなことはできないです・・・」とシステム部門は苦笑いする。RPAの世界観が共有されていないから、そういう会話が実際になされてしまうのです。

もし共有されていれば、アナログのデータをデジタル化するのはまた違う技術ではないかという発想になりますよね。「RPAで効率化できるのは、こういう種類の仕事ですよね。私の場合は、〇〇業務と〇〇業務がそれに該当するので、よろしくお願いします。」とシステム部門に依頼するという建設的な会話が成り立ちます。

最近、これからはDX人材が不足するとよく耳にします。それには、システム開発をする人を育てなくてはならないという側面もありますが、文系・理系やシステム部門・業務部門といったことに関係なく、皆で同じ世界観を共有することがDXの本質なのではないでしょうか。自分には関係ないなと思っている文系の皆さんこそ、データサイエンスの分野に是非ともチャレンジしてほしいです。

 

-個人的には、文系学生の間で「データサイエンスは社会に出る上で必要なスキルのうちのひとつだ」という認識が広がってきた結果かと考えています。実際に私の所属する上智大学でも、この春から「データサイエンス概論」という講義が全学部で必修化されました。

やはり、「特殊なものである」ということを払拭するというのが大事だと思いますね。データサイエンスの世界がどこに直結し、役に立つのかということを、もっと我々企業側から多くの学生さんに示していかないといけません。一部の特殊な仕事のために必要なのではなく、「どのデータをどのように扱ったらどんな結果が得られるのか」ということは、システムを作る人より、実際に運用する人たちにとって重要です。その様な学生さんが増え、会社の中核を担うようになったら、日本は劇的に変わると思います。

 

-最後に、日本が劇的に変わるということに関しまして、少子化が進み、生産人口が減少している日本でプロセスマイニングを活用することには、どのような可能性が秘めらていると思われますか?

私たちは大企業にビジネスの中心を置いていますが、この考え方はもっと大衆化・民主化していき、多くの方々がそれを使えるように、共有できるようにしていかなくてはなりません。その上で、私どもはプロセスマイニング協会の活動に賛同しています。実際に製造業の99%は中小企業で、そういう方々を含め広く大衆に考え方を普及するという協会の活動理念に大変共感しています。

新しい考え方を通して、企業が「自分たちを変えよう、変化に強い企業になろう」という活動こそがDXそのものなんです。そのために、プロセスマイニングは有益な武器だと思います。これは自分たちがRPAを推進してきた反省も込めてですが、いつまでも個別最適でとどまっている企業と真のDXを推進する企業では大きな差が出てくるであろうと考えています。結果的に、大企業・中小企業問わず、幅広くプロセスマイニングの考え方が浸透したら、日本がもっと強くなると信じています。

 

-当協会がリリースする“みんなのプロセスマイニング”がその一助になることを強く期待しています。

そうですね。大いに期待しています。大企業でプロセスマイニングを本格的に活用していこうとしている人たちが“みんプロ”で初めに世界観(正しい目的・使い方)を理解するということにも、大いに役に立つと思います。実は、私の周りにも、“みんプロ”を活用して、社内で勉強会をしたいと言っている人たちもいます。

もう一点、大変高価な欧米のプロセスマイニングツールは買えないけれど、“みんプロ”から変革の考え方やヒントを得たいという皆さんのきっかけにもなるのではないでしょうか。個人的にも非常に楽しみですし、プロセスマイニングに携わる者としても大いなる期待をしています。

 

-貴重なお話をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。

 

インタビュー内でお話しいただいた、一般社団法人プロセスマイニング協会より無償配布中の「みんなのプロセスマイニング」の詳細については以下のリンクよりご覧いただけます。会員登録するだけでダウンロードしていただけますので、是非一度「プロセスマイニングによる可視化」の威力をご体感ください!